展覧会を終えて(大谷俊一編)/渡辺秀亮

 大谷氏が、思い入れのある金沢という場でどのような作品作りを見せてくれるか楽しみであったが、非常に長い期間金沢に滞在し、この展覧会のために時間を費やしてもらえたことがそのすべてを物語っているといえる。

 金沢美大主催の展覧会ということで、大学構内をくまなくまわり、「金沢美術工芸大学演劇部『べれゑ』芝居テント梁」という素材に出会い、また、自身と石川の関係の象徴として「羽咋郡志賀町大坂の祖母宅布団用打ち直し木綿わた、新聞紙」を使用し、さらに、会場との関わりとして「旧大和百貨店現ラブロ片町屋上タイル」を見つけ出した。特にこの「屋上タイル」は、何日間も会場に足を運び、ラブロの警備員や役員の方とのコミュニケーションを通して人間関係が構築されたからこそ使用出来た素材であり、旧大和百貨店としての大谷氏自身の幼い頃の記憶をも内包している。もちろんその他の素材もほとんどが金沢で探し出したものであり、記憶や場所などの「環境」が作品に密接に現れている。

 作品を搬入して展示するだけではないこの大谷氏の手法は、その場所ごとの鑑賞者とのかかわり方を明確に表すとともに、作者自身のかかわり方を確固たるものとして表現している。そしてなによりも、今展覧会における大谷氏の素材集めから展作業時までの制作に対する真摯な姿こそが、一番意味のあることだと感じたのは私だけではないであろう。

 

渡辺秀亮